『ザ・コーヴ』 リック・オバリー氏の本音

太地町のイルカ漁を追ったドキュメンタリー『ザ・コーヴ』に主演(?)しているリック・オバリー氏が3日付の記事で、エンタメ情報サイトムビコレのインタビューを受けている。主には言論の自由について語っているのだが、そうではない箇所で、氏の主張する言論の自由をも台無しにしかねない、一部興味深い記述があったので引用する。

──最後に、食用として牛や豚を殺すことと、イルカを殺すことと、オバリーさんのなかではどのように違うのかを教えてください。


オバリー:それは正直、比べられることではないと思います。まず──、大きな違いは家畜動物と野生動物の違い。その点で大きな違いがあります。また、生態的に見てもイルカは、人間と同じくらい大きな頭脳を持っていること。ですから、ブタなどと比べるべきものではないのではないでしょうか。

出典:http://www.moviecollection.jp/news/detail.html?p=1356


オバリー氏は「野生動物と家畜動物の違い」と「人間と同じくらい大きな頭脳を持つイルカと、そうでない豚などの動物との違い」という二つの違いを持ち出している。
「家畜動物」という言い方には、食べられるために育てられているというニュアンスが含まれているし、「人間と同じくらい大きな頭脳」という表現には、人肉食がタブーであるように、人間が自分と同じように考え感じる能力を持ったイルカを食べてはいけないというニュアンスが含まれている。
なので通常は、上記の二つの違いを論拠にして「牛や豚は食べていいけど、イルカは食べちゃ駄目」という主張を展開するはずなのだが、オバリー氏は「比べられない」と言い、判断を避けているのだ。私は、この言い回しにオバリー氏の本音が透けてみえる気がしてならない。
巧みな言い回しに隠れてはいるが、結局氏の主張は「牛や豚とは比べられない。でも、とにかくイルカを食べるのは無条件に駄目だ」と言い換えられる内容だ。ほとんど定言命法めいている。苦しい説明とは言え、家畜と野生、脳の大きさの違いで、食べていいものといけないものの差異を説明しようという形跡が見られないのだ。かと言って全ての動物は食べていけないものだという主張でもない。つまり彼の主張は論理ではない。
とにかくイルカだけは食べてはいけないというなら、別にそれでいいのだ。「理由はないけど、イルカは俺にとってとにかく殺しちゃいけないものなのだ」とでも言えばいいのである。しかしそうしない。自分の主張に論拠がないということが分かっているが、それを巧みに隠して、さもイルカ漁に反対する人々と自分は同じですというように見せかけ、その力をたのんでいるのだ。
オバリー氏はおそらくイルカを食べることと、他の動物を食べることに、倫理的な差異を見出せないことに気づいている。悪と言えばどちらも悪だし、文化と言えばどちらも文化であることを知っているのだ。
おそらく彼の行動原理は、単に個人的なものだ。それは氏がイルカの調教師時代にストレスで自殺したところを目撃したというイルカへの罪滅ぼしでやっていることなのかも知れないし、欧米人のナイーブな同情を喚起しやすいイルカというネタで儲けようと目論んでいるのかも知れない。いずれにせよ、牛や豚まで同様に駄目と言ってしまえば、目的は果たせない。
ザ・コーヴ』の上映反対運動は言語道断だが、オバリー氏のマジョリティーに同調しているかのように見せかけ、故意に自分の本当の目的を隠蔽するような振る舞いも、同様に許してはいけない。そんなアンフェアな態度で、言論の自由を主張するのは卑怯としかいいようがない。